その言葉だけで、文として成り立つ?
「立つ鳥あとを濁さず」——成り立ちますね。ことわざです。「猫の額」——成り立ちません。慣用句ですね。
何か言葉を調べようとしたときに、ことわざ辞典にも慣用句辞典にも同じフレーズが載っていた…なんてことはありませんか?インターネットを見ても「ことわざ(慣用句)」と書かれているサイトを時々見かけますよね。いったい何が違うのでしょう?ここでは四字熟語や故事成語もあわせて、その違いを整理してみることにしましょう。
「ことわざ」とは、昔から言い伝えられてきた短い言葉で、教訓や風刺、生活の知恵を含んだものを指します。大事なのは、それ自体で一つの文として成り立っていることですね。
たとえば「猿も木から落ちる」。これだけで「どんな名人でも失敗することがある」という意味が完結しています。「犬も歩けば棒にあたる」も「蛙の子は蛙」も、聞いただけで「なるほど」と思わせる教えが込められています。
つまり「ことわざ」のポイントは、独立した文であることと、教訓があること。この二つです。
一方、慣用句とは二つ以上の単語が結びついて、全体として一つのまとまった意味を持つようになった言葉のことです。「言い回し」という言い方をすることもありますね。
慣用句の大きな特徴は、それだけでは文にならないということ。文章の一部分として使われます。
たとえば「道草」と「食う」が結びついた「道草を食う」。これは「寄り道をする」という意味ですが、「道草を食う」だけでは何も言っていませんよね。「学校の帰りに道草を食っていたら叱られた」というように、文の中に組み込んで初めて意味をなします。
動物の例でいうと「猫の額」がそうですね。「とても狭い」という意味ですが、「猫の額ほどの庭」というように使います。「馬が合う」「逆鱗に触れる」なども慣用句です。
もう一つの特徴は、言葉を言い換えられないということ。「道草を食う」を「道草を食べる」とは言いませんよね。決まった形で使われるからこそ、慣用句なのです。
四字熟語は、その名のとおり漢字四文字で構成された言葉です。こちらは意味や成り立ちではなく、見た目の形による分類なんですね。
「羊頭狗肉」「竜頭蛇尾」「鶏鳴狗盗」「蝸牛角上の争い」…このサイトでも、たくさんの四字熟語を紹介しています。
ここで注意したいのは、四字熟語という分類がほかの分類と重なることです。これについては、あとで詳しく説明しますね。
故事成語とは、中国の古い出来事や言い伝えから生まれた言葉のことです。「故事」とは昔あった出来事、という意味ですね。
代表的なのが「虎の威を借る狐」。狐が虎を自分のうしろに歩かせて、ほかの動物たちを怖がらせたという中国の話から生まれました。「画竜点睛」も「鶏口となるも牛後となるなかれ」も故事成語です。
故事成語の面白いところは、もとの話を知らないと意味が分からないことです。「五十歩百歩」と急に言われても、戦場で五十歩逃げた兵士が百歩逃げた兵士を笑ったという話を知らなければ、ぴんと来ませんよね。この点については「ことわざと文化」のページでも詳しく触れていますので、あわせてご覧ください。
ここまで四つの分類を説明してきましたが、ここからが肝心なところです。
実はこの四つ、重なり合っているのです。一つの言葉が、同時に複数の分類に当てはまることがよくあります。
たとえば「羊頭狗肉」。漢字四文字ですから四字熟語ですし、中国の書物に由来しますから故事成語でもあります。さらに「見かけ倒しに気をつけよ」という教訓を含んでいますから、ことわざとして扱われることもあるんですよ。
「虎の威を借る狐」も同じです。中国の話が由来ですから故事成語ですが、「他人の力で威張るな」という教訓があるので、ことわざ辞典にも載っています。
つまり——
ことわざ…教訓があるか、独立した文か、という中身による分類
慣用句…文の一部として使われるか、という使い方による分類
四字熟語…漢字四文字かどうか、という形による分類
故事成語…中国の故事が由来かどうか、という出どころによる分類
見ているところが、それぞれ違うんですね。だから重なるのは当たり前なのです。冒頭で触れた「ことわざ辞典にも慣用句辞典にも同じ言葉が載っている」という現象も、これで説明がつきます。
| 何による分類? | 特徴 | このサイトの例 | |
|---|---|---|---|
| ことわざ | 中身 | 教訓があり、それだけで文になる | 猿も木から落ちる |
| 慣用句 | 使い方 | 文の一部として使う。言い換え不可 | 猫の額/馬が合う |
| 四字熟語 | 形 | 漢字四文字 | 羊頭狗肉/竜頭蛇尾 |
| 故事成語 | 出どころ | 中国の昔の出来事が由来 | 虎の威を借る狐/画竜点睛 |
とはいえ、実際に言葉を前にすると迷ってしまうもの。そんなときは、こんなふうに考えてみてください。
「立つ鳥あとを濁さず」——成り立ちますね。ことわざです。「猫の額」——成り立ちません。慣用句ですね。
「急がば回れ」——「あせるな」と教えてくれています。ことわざです。「雀の涙」——ただ「ごくわずか」という様子をあらわしているだけ。慣用句ですね。
この二つを確かめるだけで、ことわざと慣用句はだいたい区別がつきます。そのうえで、漢字四文字なら四字熟語でもあり、中国の話が由来なら故事成語でもある——そう考えると分かりやすいのではないでしょうか。
ここまで細かく分けてきましたが、最後に一つだけ。
実は、辞典によっても分類は少しずつ違います。ある辞典ではことわざとして載っている言葉が、別の辞典では慣用句として扱われていることも珍しくありません。専門家のあいだでも意見が分かれるくらいですから、無理にきっちり分ける必要はないんですよ。
大切なのは、その言葉がどんな場面で生まれ、何を伝えようとしてきたのかを知ることです。「馬の耳に念仏」も「猫に小判」も、分類がどうであれ、昔の人が暮らしの中で見つけた知恵には変わりありません。
動物が登場する言葉については「動物にまつわることわざ」のページでたっぷり紹介していますので、ぜひご覧くださいね。分類を気にしながら読んでみると、また違った面白さが見つかるかもしれませんよ。