辞典が生まれるまでの長い時間

ここで一つ、不思議に思いませんか。
「ことわざ」そのものは、文字より前からあったはずです。古事記や万葉集にも、当時言い慣わされていたと思われる表現が登場しますからね。それなのに、辞典としてまとめられたのは平安時代になってから。ずいぶん時間がかかっています。
理由ははっきりしています。書き残す必要がなかったからです。
「ことわざ」は、口から口へ伝わるもの。短くてリズムがよく、一度聞いたら忘れない形になっているのは、そのためでした。わざわざ書き留めなくても、ちゃんと受け継がれていったんですね。このあたりは「ことわざの起源」のページで詳しく説明しています。
では、なぜ辞典が作られたのでしょう。おそらく、学問として整理しようという意識が生まれたからでしょう。貴族や僧侶といった文字を扱う人々が、庶民の言葉を「研究の対象」として見はじめた——そう考えると、世俗諺文という名前にも納得がいきます。「世俗」つまり世間一般の、「諺文」つまりことわざの書、という意味ですからね。
庶民が日々使っている言葉を、わざわざ書き留めて分類する。今では当たり前のことですが、当時としてはなかなか新しい発想だったのではないでしょうか。
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