ことわざ動物園

牛にまつわることわざ

のんびり、どっしりとしたイメージのある牛。ずっと昔から田畑を耕し、荷物を運び、人の暮らしを支えてきた動物です。それだけ身近な存在だったからこそ、牛が登場する「ことわざ」もたくさん残されているんですよ。ここでは牛にまつわる「ことわざ」を紹介していくことにしましょう。

牛にまつわる「ことわざ」

牛に引かれて善光寺参り

意味

思いがけないことがきっかけで、よい方向へ導かれること。また、自分の意思ではなく、人に誘われて物事を始めること。

由来

信濃(今の長野県)に伝わる言い伝えに由来しています。信心のないおばあさんが、干していた布を牛が角に引っかけて走り去ってしまい、追いかけていくうちに善光寺にたどり着き、やがて熱心に信仰するようになったというお話です。

使い方

友達に誘われただけだったのに、すっかり山登りにはまりました。牛に引かれて善光寺参りですね。

牛の歩み

意味

物事の進み方がとてもゆっくりであること。

由来

牛がのっそりと歩く様子に由来しています。ただし、遅くても着実に進むという意味もあり、必ずしも悪い意味だけではありません。「牛の歩みも千里」と続けて言うこともあります。

使い方

工事は牛の歩みですが、少しずつ形になってきました。

牛を馬に乗り換える

意味

劣ったほうをやめて、優れたほうに乗り換えること。

由来

足の遅い牛から、速い馬に乗り換えることに由来しています。くわしくは「馬のことわざ」のページでも紹介していますので、あわせてご覧ください。

使い方

道が混んでいるので、牛を馬に乗り換えて自転車で行くことにします。

牛耳を執(と)る

意味

集団の中心となって、全体を思いどおりに動かすこと。

由来

中国の古い儀式に由来しています。諸侯(しょこう:諸大名の意)が同盟を結ぶとき、その場の主導者が牛の耳を切り取り、血をすすり合って誓いを立てたことから生まれた言葉です。略して「牛耳る」とも言いますね。

使い方

あの先輩が部活を牛耳っているので、なかなか意見が通りません。

牛の角を蜂が刺す

意味

何の手ごたえもなく、まったく効き目がないこと。

由来

硬い牛の角を蜂が刺しても、牛は痛くも痒くもないことに由来しています。「蛙のことわざ」のページで紹介している「蛙の面に水」や、「馬のことわざ」のページで紹介している「馬の耳に念仏」と同じような意味の「ことわざ」です。

使い方

何度注意しても牛の角を蜂が刺すようで、まるで響いていません。

鶏口となるも牛後となるなかれ

意味

大きな組織の末端にいるより、小さくてもその長になるほうがよいということ。

由来

中国の『史記』に由来しています。「鶏口」は鶏のくちばし、「牛後」は牛のおしりのこと。大きな牛のしっぽについていくより、小さな鶏でも頭になれ、という意味ですね。

使い方

大手に就職するより地元で独立します。鶏口となるも牛後となるなかれ、ですから。

商いは牛の涎(よだれ)

意味

商売は、牛のよだれのように細く長く、気長に続けることが大切だということ。

由来

牛のよだれが途切れることなく長く垂れ下がる様子に由来しています。一気に儲けようとせず、細く長く続けなさいという商売の心得です。

使い方

焦らずにコツコツ続けましょう。商いは牛の涎と言いますからね。

牛も千里、馬も千里

意味

速さは違っても、最後にたどり着くところは同じだということ。

由来

足の遅い牛も、速い馬も、時間をかければ同じ千里の道を行き着くことに由来しています。急がなくてもいい、という励ましの言葉として使われます。

使い方

人より時間はかかりましたが、牛も千里、馬も千里です。

牛は牛連れ、馬は馬連れ

意味

似た者同士が集まると、物事がうまく運ぶということ。

由来

牛は牛同士、馬は馬同士で歩かせるほうが、歩調が合ってうまくいくことに由来しています。「類は友を呼ぶ」と同じような意味の「ことわざ」です。

使い方

同じ趣味の仲間だと話が早いですね。牛は牛連れ、馬は馬連れです。

角を矯(た)めて牛を殺す

意味

小さな欠点を直そうとして、かえって全体をだめにしてしまうこと。

由来

牛の曲がった角をまっすぐに直そうとしたところ、牛そのものを死なせてしまったという話に由来しています。

使い方

細かい指摘ばかりしていては、角を矯めて牛を殺すことになりますよ。

牛に対して琴を弾(だん)ず

意味

どんなに立派なことを説いても、理解できない相手には通じないということ。

由来

中国の故事に由来しています。牛に向かって琴を聞かせても、その音色の良さは分からないということですね。「馬の耳に念仏」「犬に論語」「猫に小判」と同じような意味の「ことわざ」です。

使い方

専門用語で説明しても、牛に対して琴を弾ずるようなものでした。

牛の小便と親の意見

意味

親の意見は、長々と続くわりに効き目が薄いということ。

由来

牛の小便が長く続くことに、だらだらと長い親の小言をたとえたものです。親の立場からすると少し切ない「ことわざ」ですね。

使い方

また説教が始まりました。牛の小便と親の意見、とはよく言ったものです。

牛の一散(いっさん)

意味

普段はのんびりしている人が、何かのはずみで急に猛烈な勢いで動き出すこと。

由来

おとなしい牛も、何かに驚くと一目散に走り出すことに由来しています。

使い方

いつもマイペースな彼が締め切り前に猛然と働きだしました。まさに牛の一散です。

牛って、どんな動物?

牛は偶蹄(ぐうてい)目ウシ科の動物で、今から1万年ほど前に野生のオーロックスという牛を家畜化したものが始まりとされています。世界中で飼われていて、その数はなんと約15億頭。人間のそばで暮らす動物としては、最も数の多い部類に入りますね。日本でおなじみの黒毛和種をはじめ、乳牛として有名なホルスタイン、肉用のアンガスなど、用途に合わせてさまざまな品種が生み出されてきました。牛の大きな特徴といえば、胃が4つあることでしょう。一度飲み込んだ草を口に戻してもう一度噛む「反芻(はんすう)」という行動は、みなさんも見たことがあるのではないでしょうか。人間が消化できない固い草を、時間をかけて栄養に変えているんですね。あののんびりとした口の動きには、ちゃんと意味があったのです。

性格はおだやかで、争いを好みません。ただ、記憶力がよく、嫌なことをされた相手のことは長く覚えているとも言われています。また、牛は仲間と群れをつくり、親しい相手ができると一緒に過ごす時間が長くなるそうですよ。意外に思われるかもしれませんが、牛は色の識別が苦手で、赤い色に興奮しているわけではないんです。闘牛で牛が突進するのは、布がひらひらと動いているからなんですって。日本では古くから田畑を耕す大切な働き手として飼われ、農家にとっては家族同然の存在でした。「ことわざ」にのんびり屋として描かれることが多い牛ですが、その背景には人間の暮らしを黙々と支えてきた長い歴史があるんですね。

牛にまつわる伝説(昔話)

牛が登場するお話といえば、七夕の彦星(ひこぼし)を思い浮かべる人もいるでしょう。彦星は漢字で「牽牛(けんぎゅう)」と書き、牛を引く人という意味なんですよ。ここでは、もう少し身近な日本の昔話「牛方(うしかた)と山姥(やまんば)」を紹介することにしましょう。

昔々、牛に荷物を積んで運ぶ牛方という仕事をしている男がいました。ある日、男は干し魚をたくさん積んで、山道を歩いていました。すると、どこからともなく恐ろしい山姥があらわれて、こう言ったのです。「その魚を一匹よこせ。でないと、おまえを食ってやる。」怖くなった男は、言われるままに魚を一匹投げ与えました。山姥はそれをペロリと平らげると、また追いかけてきて「もう一匹よこせ」と言います。そうして一匹、また一匹と、とうとう魚はすべてなくなってしまいました。

それでも山姥は追ってきます。「もう魚はない」と言うと、今度は「ならば牛を食う」と言い出しました。男は大切な牛を奪われ、ついには自分まで狙われる羽目に。必死で逃げ出した男は、山の中に一軒の家を見つけて飛び込みました。ところが、なんとそこは山姥の家だったのです。男は急いで屋根裏に隠れました。

しばらくすると山姥が帰ってきて、餅を焼いて食べはじめました。男は屋根裏から葦(あし)の茎をそっと垂らし、餅を一つ、また一つと吸い上げていきます。山姥は不思議がりながらも、やがて「もちが減るのは不思議だが、まあいい」と言って、大きな木の箱の中で眠ってしまいました。そのすきに男は屋根裏から下り、箱に穴を開けて熱い湯を流し込み、とうとう山姥を退治したのでした。

このお話は、地域によって細かい部分が違います。山姥に追われるのが牛方ではなく馬方だったり、隠れる場所が天井ではなく木の上だったりするんですよ。乱暴な結末に思えるかもしれませんが、昔の山道がどれほど危険な場所だったか、そして牛を失うことが働く人にとってどれほど大きな痛手だったかが伝わってくるお話ですね。